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水戸地方裁判所 昭和50年(ワ)47号 判決 1977年3月15日

原告 両毛ナシヨナルクレジツト株式会社

被告 有限会社竹水園

主文

訴外株式会社ホテルレークサイドが、昭和五〇年一月四日被告に対し別紙物件目録記載の建物を売渡した契約は、金二、五〇〇万円の限度でこれを取消す。被告は原告に対し、金五〇三万七九一〇円及びこれに対する昭和五一年一〇月五日から支払ずみにいたるまで年一四・六パーセントの割合による金員(但しその総和が金二、五〇〇万円を超えるときはその限度)を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一双方の求めた裁判

一  原告

(一)  訴外株式会社ホテルレークサイド(以下訴外レークサイドという。)が昭和五〇年一月四日被告に対し、別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を売渡した契約は、金三、〇〇〇万円の限度でこれを取消す。

(二)  被告は原告に対し、金五〇三万七九一〇円及びこれに対する昭和五一年一〇月四日から支払ずみにいたるまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二双方の主張

一  請求原因

(一)  原告は、昭和四九年六月一一日訴外レークサイドと、ナシヨナル製冷暖房装置一式(以下本件装置という。)を、次の約定でリース契約(以下本件リース契約という。)をした。

リース期間 昭和四九年六月一三日から昭和五四年六月一二日まで

リース料 一ケ月金一八万四〇〇〇円

支払期日 毎月末日

特約 訴外レークサイドがリース料の支払を一回でも怠り催告を受けても支払のないとき、訴外レークサイド振出の手形小切手が不渡となり又は金融機関から取引停止処分を受けたとき、訴外レークサイドの資産信用に重大な変更を生じたとき等の場合には直ちに契約を解除することができる。

契約を解除されたときは、原告に本件装置を返還し、同時にリース期間中のリース料の総額に相当する額を損害賠償として同時に支払う。

但し原告が本件装置を回収し、これを処分した場合には、その処分価額から引取及び処分に要した費用を差引いた金額を右賠償金の一部又は全部に充当することができる。

金銭債務の履行遅滞があつたときは、支払期日の翌日から支払にいたるまで年一四・六パーセントの割合による損害金を支払う。

(二)  訴外レークサイドは、昭和五〇年一月二〇日債務の弁済が困難となり、唯一の不動産である本件建物を処分することになり、同月末の支払も不能となつたので、原告は同月二八日訴外レークサイドの信用又は事業に重大な変更を生じたものと認め、本件リース借契約を解除し、訴外レークサイド代表者の訴外小寺英夫もこれを了承して本件装置を返還し、同月末訴外レークサイドが原告に対しリース料支払のため振出していた金一八万四〇〇〇円の約束手形は不渡りとなつた。その結果原告は訴外レークサイドに対し、昭和五〇年一月から同五四年五月までのリース料合計金九七五万二、〇〇〇円の約定損害金債権を取得したところ、本件装置を原告が金三三七万九二二五円で処分したので、これを右債権に充当し、その残債権は金六三七万二七七五円となつた。その後原告は、昭和五一年一〇月四日訴外有限会社サンコーリースから、水戸地方裁判所昭和五〇年(ワ)第二九〇号詐害行為取消請求事件の和解に基づき、金二九〇万円を受領したので、これを残債権金六三七万二七七五円に対する昭和五〇年一月二九日から同五一年一〇月四日までの年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金一五六万五一三五円に先ず充当し、残金一三三万四八六五円を元本に充当すると、その残債権は金五〇三万七九一〇円となり、これに対する昭和五一年一〇月四日から支払ずみにいたるまで、年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金債権を有している。

(三)  訴外レークサイドは、昭和五〇年一月四日被告に対し、本件建物を代金九五四万円で売渡し(買戻特約付、以下本件売買契約という。)、水戸地方法務局笠間出張所同月二〇日受付第四〇八号所有権移転登記をなした。

ところで本件売買契約当時、訴外レークサイドの資産は本件建物(昭和四八年二月一五日金四、〇〇〇万円の工事費で建築されたものであるから、その価額は金四、〇〇〇万円である。)と什器備品等(金一〇〇万円相当)しかないのに対し、金一万円以上の債務だけでも、次のとおり合計金九、五五二万円もあつた。

国民金融公庫      金 一、六〇〇万円

水戸信用金庫      金 一、六〇〇万円

茨城県商工信用組合     金 二〇〇万円

茨城県中央信用組合   金 二、四五〇万円

東邦銀行          金 四八〇万円

その他の金融機関      金 七三〇万円

飲食税            金 六四万円

所得税            金 六三万円

サンコーリースに対する設備費 金五四〇万円

電気工事費         金 一五〇万円

その他の買掛金(設備費)  金 七〇〇万円

原告に対する前記債務    金 九七五万円

ところで本件建物には、訴外茨城県中央信用組合のため金一、〇〇〇万円の根抵当権が設定(昭和四九年七月二九日受付第七、〇一三号)されていたので、訴外レークサイドが本件建物を処分するときは、右根抵当債権金一、〇〇〇万円を超える部分について債権者を害すること明らかである。

(四)  訴外レークサイド代表者小寺英夫は、本件建物を被告に処分するときは、債権者を害することを知つていたものである。

(五)  よつて本件建物の価額金四、〇〇〇万円から右根抵当債権金一、〇〇〇万円を控除した残額の部分につき、訴外レークサイドの被告に対する本件建物の売買を詐害行為取消権に基づいて取消し、その価額賠償として原告は被告に対し、金五〇三万七九一〇円及びこれに対する昭和五〇年一〇月四日から支払ずみにいたるまで、年一四・六パーセントの割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実中原告主張の約束手形が不渡りとなつたこと、原告が和解金として金二九〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同(三)の事実中、本件建物の売買代金、その時価、訴外レークサイドの債務のうち、サンコーリースに対する設備費、電気工事費、原告に対する債務は否認するが、その余の事実は認める(但し所得税は取得税である。)。本件建物は昭和四八年二月金三、五〇〇万円で建築されたものである。

(四)  同(四)の事実は否認する。

(五)  同(五)は争う。

三  抗弁

(一)  本件装置のリース契約解除による損害賠償についても、割賦販売法六条の規定が類推適用されるものと解するを相当とするところ、原告主張の損害賠償の予定は原告において無催告解除することを認め、一方的にリースの目的物の引上を可能とし、しかも引揚げた目的物を一方的に低価評価し、更には使用しない全期間のリース料全額を賠償額とする等、著しく当事者間の公平を欠くものであるから無効である。従つて原告主張の債権は発生しない。

(二)  被告は、本件売買契約当時、本件売買契約が債権者を害することは知らなかつた。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)の主張は争う。本件装置の価額金六七〇万円とリース料総額金一、一〇四万円との差額金四三四万円は、金利、損害保険料、税金、人件費(取付を含む)、管理費、原告の利益であつて、不当なものではない。

(二)  抗弁(二)の事実は否認する。本件売買契約当時、訴外レークサイドの監査役であり、しかも税理士としてその申告等に関与していた小松昌次は、被告会社の取締役であつたもので、訴外レークサイドの経理状況は十分知つていたものであつて、被告会社は本件売買が訴外レークサイドの債権者を害することを知つていたものである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

被告は原告主張の損害賠償額の予定は無効であると抗弁するけれども、被告の主張する割賦販売法六条は、指定商品の販売を前提とするものに対し、右損害賠償額の予定はリース契約に基づくものであつてその法律構成を異にし、リース契約の場合に、リースの目的物そのものの価額をもつて割賦販売法六条の販売価格とみることができないことは、リース料には後記のとおり目的物の価額のほかに各種の費用が含まれていることから明らかであり、リースの場合における割賦販売法六条の販売価格に当るものは、リース料の総額と解する余地がないわけではなく、その経済的機能は与信契約と同種のものと解され、しかも民法四二〇条一項の法意に照らすと、これが類推適用を認めることはできない。のみならず、これを実質的にみても、成立に争いのない甲第一号証、証人小寺英夫、同大賀稔、同本山昭雄の各証言によると、本件リース契約は商人間のものでありそのリース料には本件装置の価額金六七〇万円のほか、取付、取外し費用、取外しによつて使用不能となる部品代、減価額、本件装置の保険料、管理費、本件装置の代金額に対する利子等によつて構成されているものであつて、その総額は金一、一〇四万円(五年間)で本件装置そのものの価額を超えること金四三四万円にすぎないこと、訴外レークサイド代表者小寺英夫は、本件装置を買受けるには買受資金の融資を受ける必要があつたので、買受けるとすればその利息の支払を要し、これを賃借すればその利息の支払が不要となる上、賃料を経費として落せる利点があつたことからリースを選択したものであることが認められるので、原告の主張する様な約定(無催告解除、引揚、評価等)があつたからといつて、本件リース契約の損害賠償の予定が無効と解すべき理由とならない。

二  成立に争いのない甲第四号証、第五号証の一ないし三、第八号証、乙第三四号証、証人柿沢伸彦の証言によつて成立を認める甲第一〇号証の一、二、証人小寺英夫、同大賀稔、同柿沢伸彦、同本山昭雄の各証言に弁論の全趣旨によると、訴外レークサイドは昭和四九年末頃には多額の債務を負担して債務超過となり、昭和五〇年一月末に支払うべきリース料を支払う見込がなく、しかも訴外レークサイドの唯一の資産であつた本件建物を被告に売渡す交渉が続けられていたこと、原告は訴外レークサイドの右事情は、本件リース契約の「資産信用に重大な変更を生じたとき」に当るとして昭和五〇年一月二八日本件リース契約を解除し、本件装置を引揚げたこと、その後原告は本件装置を代金三三七万九二二五円で訴外アルプス温調株式会社等に処分したこと等の事実が認められ、他に右認定を動かす証拠はない。

右認定の事実によると、本件リース契約は解除され、原告は訴外レークサイドに対し、解除による予定賠償額として、昭和五〇年一月から同五四年五月までの賃料額の合計金九七五万二〇〇〇円から本件装置の処分価額金三三七万九二二五円を控除した金六三七万二七七五円及びこれに対する解除後の昭和五〇年一月二九日から年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金債権を取得したものというべきである。その後原告は訴外有限会社サンコーリースから和解金として金二九〇万円を受領したこと当事者間に争いがないので、これを右債権に法定充当すると、昭和五〇年一月二九日から同五一年一〇月四日までの約定遅延損害金一五六万五一三五円に先ず充当し、元本に金一三三万四八六五円が充当される結果、その部分は消滅し、原告の訴外レークサイドに対する債権は、金五〇三万七九一〇円及びこれに対する昭和五一年一〇月五日から支払ずみにいたるまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金となつた。

三  請求原因第三項の事実中、原告が訴外レークサイドに債権を有していたこと前認定のとおりであり、本件建物の売買代金額及び時価、訴外レークサイドの債務のうち、サンコーリースに対する設備費、電気工事費を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、証人小寺英夫の証言によると、本件建物は昭和四九年二月金三、五〇〇万円の工事代金で新築したもの(同証人の証言によると、他に付帯工事として金五〇〇万円を要したが、これは外燈、道路舗装等の土地の工作物の費用であつたことが認められる。)であることが認められるので、他に特段の事情が認められないので、その後の経済事情を勘案すれば、本件売買契約当時の本件建物の価額は金三、五〇〇万円と認められ、この認定に反する乙第三二号証、証人小松昌次の証言部分は前掲証拠に対比して採用できず、他に右認定を動かす証拠はない。

そして証人小寺英夫の証言によつて成立を認める乙第二号証に同証人の証言によると、訴外レークサイドが被告に売渡した本件建物(什器、備品を含む)の売買代金は、金九五四万円であつたことが認められ、この認定に反する証人小松昌次の証言部分は採用できず、他に右認定を覆す証拠はない。

右認定の事実によると、本件建物に金一、〇〇〇万円の根抵当権の設定があつたが、金三、五〇〇万円の価額を有するものを金九五四万円で売渡したものであるから、不当に安い価額で処分したものというほかはなく、しかも本件売買契約当時、訴外レークサイドの資産は本件建物(金三、五〇〇万円)及び什器備品(金一〇〇万円)だけであつたのに、その債務はサンコーリースに対する設備費、電気工事費を除いても金八、八六二万円であつて、明らかに債務超過であり、これを他に処分するときは債権者に弁済をなし得なくなること明らかであるから、この点からみても本件売買契約のうち金二、五〇〇万円の部分は債権者を害するものというほかはない。

もつとも証人小寺英夫、同小松昌次の各証言のうちには、訴外レークサイドが被告に売渡した本件建物の代金及び被告から本件建物を賃借して得た営業利益をもつて債権者に支払う計画であり、現在までかなりの債務が弁済されたとの証言部分があるけれども、右証人らの他の証言部分によれば、訴外レークサイドは現在も債務超過の状況にあり、しかも弁済された資金が本件建物の代金かどうか(本件建物のほか、訴外小寺英夫所有の土地建物が同時に被告に代金四、三四六万円と代金一、七〇〇万円で売渡されており、債権者への弁済資金がその代金か、本件建物の代金かを判別するに足る資料はない。)明らかでないので、右認定を妨げるものではない。

四  証人小寺英夫の証言によると、訴外レークサイドの代表者小寺英夫は、本件売買契約当時、前記三に認定した事実を知つていたことが認められるので、訴外レークサイドが本件建物を処分すれば債権者を害することを知つていたものというほかはない。

五  そこで被告の善意の抗弁について判断する。

前掲甲第四号証、第五号証の一ないし三、乙第二号証、成立に争いのない甲第六、第七、第九号証、証人小寺英夫の証言によつて成立を認める乙第一、第三ないし第五号証、証人小寺英夫、同小松昌次の各証言に被告会社代表者本人尋問の結果を総合すると、昭和四九年当時訴外小松昌次は税理士で、訴外レークサイドの監査役として、訴外レークサイドの経理、税理関係をみていたので、その経営状況については十分知つていたこと、昭和四九年九月頃訴外レークサイドの資産は本件建物とその什器備品のみであつたが、金融機関に対する債務だけでも金七、〇〇〇万円を下らず、水戸信用金庫はその取立のため競売の申立をするとの態度であつたこと、そこで訴外レークサイドの代表者小寺英夫はその金策のため訴外杉山みとりに右事情を告げて融資方を相談した結果、その善後策を訴外小松昌次に持ちかけたところ、他の債権者に処分して再建策を立てようとしたが不成功に終つたこと、そこで右杉山みとり、小寺英夫、小松昌次の三人で協議した結果、訴外杉山みとり、小松昌次らが被告会社を設立し、これに訴外レークサイドの所有にかかる本件建物(代金九五四万円)、小寺英夫所有の土地(代金四、三四六万円)、建物(代金一、七〇〇万円)をそれぞれの売買契約により売渡し、その代金で訴外レークサイドの金融機関に対する債務金七、〇〇〇万円を支払い、右不動産を訴外レークサイドが被告から賃借して営業を続け、その利益をもつて一般債権者らに支払うこととし、昭和四九年一二月一四日訴外杉山みとりと小松昌次らは被告会社を設立し、杉山みとりは代表取締役に、小松昌次は取締役に就任し、訴外レークサイド代表者小寺英夫と被告会社代表者杉山みとりとの間で本件建物を代金九五四万円で本件売買契約が締結されたこと、当時杉山みとり、小松昌次は、本件建物が昭和四九年二月工事代金三、五〇〇万円で新築したものであり、これには前叙の金一、〇〇〇万円の根抵当権の設定しかなかつたことを知つていたこと等の事実が認められ、他に右認定を覆す証拠はない。

右認定の事実によると、被告は本件売買契約当時、本件売買契約の代金額は、その時価に比し不当に低いものであり、しかも訴外レークサイドから本件建物の譲渡を受ければ、訴外レークサイドの債権者を害することを知つていたものというほかはない。

そうすると原告の本件詐害行為取消権の行使は、本件建物の当時の価額金三、五〇〇万円から根抵当債権金一、〇〇〇万円を控除した金二、五〇〇万円の限度で理由があり、価額賠償の請求は、原告の訴外レークサイドに対する債権額である金五〇三万七九一〇円及びこれに対する昭和五一年一〇月五日から支払ずみにいたるまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金と同額の金員(但し元本と約定遅延損害金の総和は、右取消額の限度。詐害行為取消権の基本債権は詐害行為当時成立していることを要するが、取消額の範囲内においてはその後に成立した利息、損害金相当の賠償を求めることができるものと解する。)の支払を求める限度において理由がある。

六  以上のとおり原告の本訴請求は右認定の限度において理由があるので正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

物件目録<省略>

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